ケガやヤケドをして形成外科に紹介されるときに他科の先生がたがよく言われること。
「形成外科に行くと痕が残らないようにしてくれるから」「形成外科では痕が残らないように縫ってくれるから」
それを聞いて子供さんのケガで付き添ってきたオカアサマがたと、うん十年前の若かりしころのワタクシは「キズは残らないんですよね?(強めに念をおすかのように)」『キズアトは必ず残ります!(またか・・と憮然としながら)』「残らないって聞いてきたんですけど??(言ってることが違うじゃないの、という感じで)」『私はキズアトが残らないって言ったことはありません!!(無責任な先生方に腹を立てながら)』「じゃあ、別のところにかかります!!!」てなことがあったとか、なかったとか。
現在のワタクシは最初の返しで『キズアトは必ず残るんです、が!、形成外科では痕が少なくなるような特別な処置や工夫を行っているんですよ~(おごそかに、余裕をみせて)』とカドが立たないように受け止められるまでに成長しました(多分・・ (;^_^A )
キズアトってどうして残るのでしょう?
「キズ」ができた瞬間から、体内では色んな反応が起きてサイトカインと呼ばれる情報伝達物質が働くことで、「キズ」が治ってゆきます。
難しい言葉で説明すると、サイトカインなどの働きで、血液凝固期⇒炎症期⇒増殖期⇒成熟期(リモデリング期)と移行して「瘢痕」すなわち「キズアト」になります。増殖期から成熟期に速やかに移行せず長期に渡り赤みや盛り上がりが目立つものを「肥厚性瘢痕」、さらには元のキズの大きさを超えて腫瘍のように大きくなっていくものを「ケロイド」と呼んで区別しています。
よく「私はケロイド体質なので・・・」と言われる方のほとんどが「肥厚性瘢痕」だと思ってよいです。
大きな違いは、赤みと盛り上がりが「肥厚性瘢痕」は正常皮膚との境がはっきりしていて時間経過で徐々に落ち着いてきますが、「ケロイド」は境がはっきりしておらず時間とともに増大・増悪することもあります。
では、どうすればキズアトはなくせるのでしょう??
残念ながら、軽い日焼け程度のヤケドや擦った程度のごく浅いキズ以外は、必ず「キズアト」が残ります。
反対に、どうしてごく浅いヤケドやキズが、アトが判らないくらいにきれいに治るのでしょう??
ごく浅い創傷の場合、先ほど出てきた血液凝固期⇒炎症期・・・の機構が働く代わりに、十分に残っている毛包または創の辺縁から表皮細胞が遊走してあっという間にキズをふさいでくれるから、ほとんどキズアトを残しません。
ということは、浅くないキズの場合でも血液凝固期⇒・・・⇒成熟期が短ければ短いほどキズアトが残りにくくなると考えてよいと思います。
形成外科がキズをなるべく早く治すため最大限に努力していることの一つに「キズ」を乾燥させないということがあります。
「キズは湿潤環境で治す」ということが今では一般の方にも常識化しつつありますが、大事なのは「適度な」ということ。
適度な湿潤環境が創傷治癒を速やかに進行させることは、以前から形成外科医のなかでは常識でしたが、たとえば一昔前に褥瘡(床ずれ)は乾燥させて治す治療(日光やヒーターやドライヤーなどで乾燥させるという・・)が流行ったり、いまだに擦り傷などは消毒だけしてガーゼをあてるのみの処置を変えないセンセーがいらしゃったり・・かと思えば、出血が多かろうが感染の危険性があろうが、なんでもかんでも創傷被覆材(キ〇パ〇ー〇ッドのように創傷を密封して、体液と基材が混合することで湿潤環境を保つ絆創膏のようなものです(‘ω’) )をしばらく貼って治りが悪い場合、「治らないキズ」だから別の病院に行きなさいとおっしゃるセンセーまで多種多様の考え方があるようです。
カラッカラでもジュクジュクでもキズの治りは停滞します。いや、むしろ悪くなることがほとんどです。
ワタクシは、出血や感染が問題ない場合、ケガのキズも手術後のキズも毎日シャワーなどで洗ってもらい、その後に軟膏を絆創膏に塗ってキズに貼ってもらう(必要があれば創傷被覆材を使用することもあります)というシンプルな方法を指導しています。
だって、ずーっとガーゼ貼りっぱなしだと痒くなるし、かといって毎日病院には通いにくいでしょ(*^-^*)
でも傷口をゴシゴシ洗っていいわけではなく、あくまでも古い浸出液・血液・軟膏などを優しく洗い流す程度ですよ( ゚Д゚)
でも、キズを消毒ではなく水道水などで洗って清潔にすることには、いまだに拒否感を持つ先生がたは多いようです(+_+)
ワタクシのところへ来られた患者さんに『洗って軟膏を塗って』というと「洗っていいんですか!?」とヨロコビックリされる方はまだしも、「前診てもらっていた先生から絶対に濡らすなと言われてましたが??」と疑惑のマナザシを向けられることも。
そういわれる方の大半のキズが、消毒の色とカサブタと薬剤の塊みたいなもので覆われた状態になっている・・・それらの全てがキズを早く治す邪魔になっているのですよ( `―´)ノ
洗うことでキズの治りを邪魔しているものや古い軟膏を落とす⇒新しい軟膏でキズを覆い湿潤環境を保つ⇒洗う、の繰り返しで大体のキズは治ります(もちろん、そうじゃないキズもあり、その場合には特別な対応が必要ですが)。
他にもキズが早く治るための工夫はイロイロとあるのですが、それは医療者側の努力なので、これを読んでいただいている皆さんには「キズは適度な湿潤環境で治す(乾燥させない)」ということ、これだけは覚えておいてくださいね ( ..)φメモメモ
さて、キズが治れば終わり。 ではありません。
キズアトすなわち瘢痕(はんこん)が「肥厚性瘢痕」や「ケロイド」にならないように、さらに形成外科医は努力をするのです!!(もちろん患者さんも!!!)
瘢痕は、最初の1-2か月は赤み・硬さ・盛り上がりなどが増強する「成長期」と、2か月を過ぎ半年から1年くらいにかけて赤みがとれ平たくなり柔らかくなる「成熟期」を経過して目立ちにくくなっていきます。
ここでも重要なのは乾燥させないこと。外用剤で「保湿」をすることで瘢痕の炎症(赤み・硬さ・盛り上がり)が速やかに改善し早く成熟させることができます。
もう一つ重要なこと。
キズアトは日焼けすると茶色い色素沈着(いわゆるシミのような状態)が強く残りやすくなるので紫外線対策をすること。
他にもテープやサポーターなどの圧迫、内服なども必要に応じ行います。
軽症のケガやヤケドは、「保湿」「紫外線対策」「圧迫」で十分に目立ちにくい「キズアト」にすることができるんです(*^-^*)
長くなってきましたが、最後に形成外科での縫合について。
外科系の中では縫合する機会は断トツに多く、縫合後のキズアトが目だちにくくなるような工夫と縫合そのものの技術(ウデ)を磨くことに命をかけているのが形成外科です。
深いキズの場合、一番深い層(筋層の断裂があれば筋層・筋膜など)から順番に皮膚のすぐ下の真皮まで2から3層を吸収糸(数か月で体内で分解吸収される糸)でズレがないように合わせ、最後に、他科で使用するものの2回りほど細いナイロン糸で皮膚を縫合します。腫れが強くなりそうな場合はワザと少しゆるめに縫ったり、血行が悪そうな場合は少なめに縫ったりと職人的なカンを要するところもあります(^-^)
このような工夫をすることで、キズアトを目立ちにくくできるんです!(本当は、もっともっと工夫していることはあるんですよーーー)
よく言われるのが「なん針縫ったんですか??」という質問。
お願い、聞かないで(+_+) いちいち数えてません・・・・
よくニュースなんかで「なん針縫った」という発言を聞くと、『縫合したセンセーはヒマだったんだなー』とか思ってしまう(失礼)。
他科と比べて皮膚の縫合は2回りほど細い糸を使用しているので、それだけでも同じ1cmを縫ったとしたら倍以上違うのに、中縫いまで含めると数倍、へたしたら10倍くらい違う針数になるので針数は無意味です。小さなケガでも、形成外科で縫うと(針数だけで言えば)大ケガになっちゃいますよ。
ワタクシはどこまでの深さまで切れていたか、どのように縫ったかが針数より大事だと思ってますので、それを患者さんに説明しています(*’▽’)
キズ・キズアトのことを形成外科以外の医療従事者の方々も十分に理解し努力していただくことで、患者さんの手術やケガのキズアトが少しでも目立ちにくくなりますように・・・
ってウチにくるキズアトの患者さんが減っても困るなぁ( ノД`)シクシク…